【KHIMAIRA vol.5】ライヴレポート◆2024年9月28日(土)池袋EDGE◆deadman降臨!無二のカリスマが覆いつくした圧倒的暗闇。そして陰翳に残った、希望の光。

今年4月より池袋EDGEで開催されている、新世代ヴィジュアル系対バンイベント「KHIMAIRA」もついに第5弾を迎えた。
これまでYUKI-starring Raphael-、Royz、DaizyStripperといった歴戦のバンドが、SPECIAL GUESTとして気鋭の若手バンドにその背中を見せてきた。
その意志の波及はバンド間に限らず、フロアに集結するオーディエンスの熱量からも見て取ることができる。端的に言うならば、信じるバンドに恥をかかせたくない。もちろんバンド側も然りである。支持する者の前で無様に負けることなど許されない。
そんな異様なマグマの蠢きを、奈落に落とすためにこの夜に召喚されたのは、まさかのdeadmanだった。
随一の説得力で、全てを闇に攫う孤高のカリスマ。
そのあまりに強大な存在には、立ち向かうことさえ容易ではない。
舞台へ招かれたsugar / umbrella / CHAQLA. / MAMA.にとって、生贄になるわけにはいかない覚悟の夜となった。
●sugar
1番手として登場したのはsugar。
始動から1ヶ月弱での出演ということもあり、ソールドアウトした会場からも好奇の熱視線が送られた。
“sugarです。どうぞよろしくお願いいたします。全部味わって帰ってくれ!”
Nea(Vo)が吠えると、うねるリフから一気に開けたサビメロに展開する「Jam」からスタート。

▲Nea(Vo)
このタイミングにおいて唯一、MVを通して楽曲の輪郭が世に伝わっている1曲だが、前のめりに畳みかけてくる構成が実に心地よい。
疾走するリズムとつんざくようなギターソロが耳に残るが、中心に位置するのはそのメロディラインなのが印象的だ。

▲けんたろう(Gt)

▲Siz(Ba)

▲諭吉(Dr)
張りのある歌声と耳なじみの良いメロディは、90’sを感じさせながらもどこかパンキッシュでもある。挑発的に振る舞う4人のメンバーが、同時にステージを謳歌している姿がそう思わせるのではないだろうか。
今後、重要楽曲になる片鱗を感じさせる1曲は、ラストの「Cacao92%」。
そのタイトルからしてバンド名や彼らが提唱する「甘い人生計画」と対極に位置するが、ほろ苦いぐらいが人生の常だったりもする。だが、限られた時間でsugarが魅せたものは、無垢な少年のように希望を枯渇するものであったし、安直なダークネスではないからこそ、彼らのカラーが発揮されていた。
立場上、期待されるであろう“新人らしさ”や“フレッシュさ”に捉われることなく、今、やりたいことを具現化するステージは好意的なものだった。
sugarの4人のこれからに大きく期待したい。
●umbrella
続いたのはumbrella。
結成1ヶ月のsugarの直後に15年目のバンドが登場する落差もさることながら、音楽性もガラリと変わる。
雨音を導入にしたSE「アマヤドリ」でゆっくりと幕が開くと、真っ青な光のなかメンバーが一人ずつ登場。

唯(Vo&Gt)が“東京、いい景色見せてください”と静かに呟くと「「愚問」」を披露。
エッジィな柊(Gt)、軽快な春(Ba)のサウンドはタイトな将(Dr)のドラミングに吸い込まれるようにアンサンブルを構築する。唯のハイトーンかつ、時折しゃがれさせるセクシーさを持つ歌唱は、一聴しただけで耳を掴むものでバンドとしてのクオリティの高さをまざまざと見せつける。

▲唯(Vo&Gt)
2曲目の「orbit」にして拳の上がる数が見違えるものとなった。

▲柊(Gt)

▲春(Ba)

▲将(Dr)
まさに“いい景色”を自ら提示したところで続いたのは「ワスレナグサ」。
インストゥルメンタルとしても成立しそうな息づくプレイの中、浮遊する歌唱はじんわりと聴衆の体温を下げるように沁みるものだった。バラードと呼ぶにはいささか肉感的なリフは、ザクザクと切り込む手触りだ。この夜のラインナップが影響したかは定かではないが、楽曲の描写で引き込む様は極めて視覚的で、バンドの持つ個性をこれでもかと発揮した。ハードロック調でダウナーにゆらめく「内向的声明」では、曲の中盤から激しく畳みかけ再び熱気を高めていく。

“満員の力見せてくれよ!ぼちぼちやろうか?”で「dilemma」をドロップ。
美しいメロディで力感なく容易く空気を掌握すると、ハンドマイクに持ち替えた唯が赤く染められ妖しさを増した「シェルター」、ラストの「Witch?」まで全7曲を駆け抜けた。音楽的説得力による独特な中毒性は、この夜を締めくくるdeadmanにも通ずるところがある。唯はしばしば“キャリアなんか関係ない”と口にするが、体温を操ったうえに「Witch?」で生みだした爆発的な熱気は、キャリアと実力の真骨頂そのものであった。umbrellaはイベントに大きなインパクトを起こし、玄人らしく鋭い爪痕を残した。
●CHAQLA.
3バンド目は「KHIMAIRA」の看板とも言えるCHAQLA.が登場。
その登場と同時にフロアのヴォルテージが上昇するのが見てとれる。

自身初となる全国ワンマンツアー、さらには過去最大キャパシティの東京キネマ倶楽部ワンマンを経た5人のオリジナリティは、単なる奇抜さに収まるわけもなく順調にスケールアップを果たしている。この日は活動初期からプレイしている「首魁の音」、さらにはキラーチューンとして機能することが多い直情的な「PLAY BACK!!」を冒頭から披露。CHAQLA.の色彩でステージを構築してみせた。

▲ANNIE A(Vo)
ドライヴしていくサウンドと、呼応するように暴れ狂うメンバーのアクションは、それだけで観た者を虜にしてしまう力がある。とにかくステージが楽しくて仕方ないことが溢れ出る茶目っ気も、彼らの主人公感を象徴する魅力だ。
癖になるギターフレーズとANNIE A(Vo)のメロディラインがセンスフルな「ミスキャスト」。さらには、NASAが入手した音をサンプリングした「太陽の悪魔」でのラップも、すでにCHAQLA.の流儀として確立されている。

▲のあか(Gt)

▲kai(Gt)
5人バンドの理想形としては、圧倒的なヴォーカリストを擁するスタイル、あるいは正五角形のように個々が補い合い塊として機能することが考えられるが、彼らはそのどちらにも属さない。5人がそれぞれの価値観とそれぞれのミュージシャンシップを貫くが故に、一見すると、とっちらかってまとまりに欠けるが、その姿勢が無二のグルーヴを生みだす。

▲鷹乃助(Ba)

▲Bikky(Dr)
“ヴィジュアル系界隈全員まとめてかかってこい!”とアジった「POISON」のソレはまさしく、大トリに控えるモンスターの影をチラつかせるもであったし、CHAQLA.なりの敬意を持った正々堂々のファイティングポーズだ。
彼らにとってホームグラウンドとなる「KHIMAIRA」故に、日ごろ発揮している殺気の濃度がいささか低かったのは事実だ。だが、不思議とその姿は挑戦者というよりは王者の風格すら感じさせるものだった。

ラストに演奏されたミクスチャーがストレートに迸る「BACK TO THE FUTURE」はまさに彼ら自身、ひいてはヴィジュアル系の未来を感じさせる光そのものだった。
●MAMA.
飲み込まれる前に飲み込んでやる。そんな切迫感を持って現れたのはMAMA.。
CHAQLA.同様、本イベントの顔ともいえる存在だが、揃いの黒い装いはこれから始まるダークネスを想起させる。
幻想的なSEのなか、命依(Vo)は頭部にいばらの冠をあしらってゆっくりと現れた。
SEが鳴りやむと同時に、響いたのはまさかの「業」。

錯乱しながら地獄へ堕ちていく究極のダウナーソング。彼らの奥義とも言える1曲だ。繰り返される轟音と静寂の中、息も絶え絶えになった命依が張り裂けるように叫ぶ。死を想起させる楽曲の終盤、JiMYY(Gt)の雄弁なソロをきっかけに解放される感覚に陥る。

▲命依(Vo)
アッパーな「MAIRA」、サグなラップとヘヴィネスが混ざり合う「不幸物」と、彼らの根底に鎮座する闇のグラデーションで支配していったところで、ようやく「アシッド・ルーム」、「Psycho」で攻撃態勢に。とにかく声量が尋常ではないオーディエンスにはニヤリとしながら“ビビらせようぜ?”とさらなる加熱を煽る。八方塞がりの歌詞をその身にまとった「PINK MOON.」はすでにスケール感を壮大に増していて、落下する感情に苛まれた。

▲かごめ(Gt)

▲JiMMY(Gt)

▲真(Ba)
“助けてくれ”と繰り返した「命日」。デジの要素と轟音、シャウト、ラップ、美しいメロディと複合的な要素を組曲のように連ね、ヘイトスピリットを振り散らかす名曲「NOPE.」まで生き様丸出しのパーフェクトな内容でステージを締めくくった。
実のところ、この日の命依は精神的に追い込まれていて“今日、歌えないかも知れない”と吐露していた。だが、背水の陣で臨み、その弱さを抱えたまま、自らの叫びで振り払う様は正直圧巻としか表現できない。

これがMAMA.、これぞMAMA.。
“生きてるのが当たり前だと思うなよ”
この言葉がいつまでも頭にこびりついて離れない。
●deadman
最後に登場するのはSPECIAL GUESTのdeadman。
その登場前から会場には異様な緊張感が走っていた。
deadmanの降臨を待ち侘びる期待と、未知の領域に対する張り詰めた感情が混沌としていることが判る。
幕が開くと、真っ青な照明に招かれるようにaie(Gt)、kazu(Ba)、晁直(Dr)、そして最後に眞呼(Vo)が登場する。
序曲に据えられたのは、今年19 年ぶりにリリースされたニューアルバム『Genealogie der Moral』収録の「静かなくちづけ」。短絡的にバラードと呼ぶことを憚られる、光陰と動静の射角が緻密な緊張感を生む1曲だ。静寂がエモーショナルに心を掻き乱していくが、その場に磔にされたように呼吸を許されない。
オープニングから空気を掌握すると、アウトロで眞呼が“ウェルカム!兄弟!”と呼びかけ「rabid dog」へ。


▲眞呼(Vo)

ファストで肉感的な音像に呼応して一心不乱に頭を振り乱す者、多重人格が憑依したかのような眞呼の振舞いに驚嘆し、立ち尽くす者でフロアは分断される。その様々な反応を見ても、deadmanというバンドが血液や細胞レベルまで侵食する無二の存在であることは明白だ。

お馴染み「blood」では一気にヴォルテージを上げていくが、これもまた彼らの鳴らす音に、糸で操られているような錯覚に陥る。“待ってました!”のキラーチューン「lunch box」ではシャウトが火を点けこの日一番の熱狂を生み出すが、痙攣しながら言葉を吐き出す眞呼、かがみながらクールに振る舞うaieのシルエットは好対照に発揮される。この日の眞呼はいつになくオーディエンスにマイクを向け、自身も身体を乗り出すというレアな振舞いで、日ごろと異なる空気を謳歌しているようにも見受けられた。

▲aie(Gt)

▲kazu(Ba)

▲晁直(Dr)
ここからはdeadmanの攻撃的側面を担う楽曲が続いた。aieのカッティングと眞呼のカウントで雪崩れ込む「quo vadis」では、幼な声と唸るようなシャウトと轟音が襲い掛かる。それまでdeadmanの世界に飲み込まれていたであろう層も、その見事なグルーヴの前では、解き放たれたように自らを曝け出すこととなった。明滅する照明がトリップ感すら孕む「re:make」と惜しげもなく名曲を連打。


ヘッドバンギングの波と共に巻き起こる歓声がちょうどピークに達したところで披露されたラストナンバーは、もちろん「蟻塚」。
会場は全ての照明が落とされ、暗闇の中には塗料にまみれた眞呼の苦悶に歪む顔だけが浮かびあがる。再び、身動きを取ることも許されず悪夢のように覆われていく。
五感を研ぎ澄ませて感じようと試みても、感覚をひとつずつ遮断しながら最後の最後に全てを奈落の底に墜落させられる。どうあがいても逃れられない結末。
音が鳴りやみ、光が差すとそこに彼らの姿はもうなかった。
これがこの夜deadmanが提示した全てだ。
体内まで蝕まれた観衆は、アンコールを求めることもせず充満した極上の闇に酔いしれた。
まさにdeadmanが唯一無二のカリスマ性を誇る所以である。
本イベント「KHIMAIRA」はイベントの性質上、SPECIAL GUESTバンドがその姿勢だけでなく、言葉でも若いバンドへエールを送り、それがヴィジュアル系シーンの未来への糧となる。そんな構造であった。
だが、この夜そのような場面は無論皆無だった。deadmanは闇を纏い現れ、闇と共に去っていった。ただそれだけだった。他になにもない。
だが、その異次元の説得力こそが共演したバンドだけでなく、目撃した者にとっても代えがたい体験となったのではないだろうか。
一方でまた光も消えていない。
今回出演したsugar / umbrella / CHAQLA. / MAMA.には共通していたことがある。それは彼らが迎合することなきままに、紛れもなく自分たちのスタイルを貫き続けた事実だ。背中を見て学ぶことは、模倣することでは断じてない。
その意味を咀嚼し、生きながらえれば自ずと道は拓く。
そう信じて「KHIMAIRA」は次のフェーズへと突入する。10月26日(土)に同会場で行われる第6弾公演には事前アナウンスされていたCHAQLA. / MAMA. / NAZARE / 「#没」の4バンドに加えMUCCの出演が発表された。
MUCC追加出演情報は、実のところ共演バンドにもこの日まで明かされていなかった。説明不要、MUCCはヴィジュアル系の歴史の中心に燦然と君臨するバンドではあるが、SPECIAL GUESTの冠はない。あくまで並列で闘うことを宣言している。
そして12月1日(日)にはSpotify O-WESTで「KHIMAIRA-SCUM PALACE-」が開催される。キマイラシリーズの総決算と言えるこの日、ステージに立つのはCHAQLA. / MAMA. / nurié / 色々な十字架 / 「#没」に加え1組のシークレットバンドだ。
「最新世代のヴィジュアル系はとにかくカッコいい。」
2024年になって囁かれている、噂の真相をその目で確かめてほしい。
文:山内 秀一
写真:A.Kawasaki

※当日、特別グッズ無料配布決定!!
■KHIMAIRA -SCUM PALACE-
2024年12月1日(日)Spotify O-WEST
OPEN 15:15/START 16:00
<出演>
CHAQLA.
MAMA.
nurié
色々な十字架
「#没」
and Secret
【チケット料金】
前売り:¥5,400(税込)
※オールスタンディング ※入場時ドリンク代別途必要
※未就学児入場不可・営利目的の転売禁止
※チケットはスマチケのみ
一般発売中
https://t.co/KRWbVq7cKv

■KHIMAIRA vol.6
2024年10月26日(土)池袋EDGE SOLD OUT!!
OPEN 16:00/START 16:30
<出演>
CHAQLA.
MAMA.
MUCC
NAZARE
「#没」