【vistlip】2年9カ月ぶりのフルアルバム『THESEUS』が持つ航海のパラドックスを智(Vo)とTohya(Dr)が13000字で超徹底解説!
希望が残っていないと悲しさすら感じられない
────次は「Fafrotzkies」。ズバリ怪奇現象。この曲も各パートが立っていて輪郭がくっきりしている一方で歌詞は具体性から離れていきます。
智:ループ感を大事にしてます。だからAメロはずっと同じ感じで構成してる。でも、最初のAメロからラストのAメロまですごい時が経ってるんです。答えになっちゃうんですけど、最初に横にいた人が最後には?…ってことです。こういう音だから一つの楽曲の中でこういうものを描きたかった。最初はすごく綺麗に幸せそうな感じで描いてるんですけど、最終的にはガラッと変わる。
────表層的には美しいけど、楽器隊の皆さんが静かに暴れているんですよね。ただ、余韻の妙な後味の悪さでハッとします。
智:これも『THESEUS』のいろいろな場面のひとつですね。
────ここから本作の起点になったダークさとキャッチーネスが共存する「B.N.S.[THESEUS ver.]」へと繋がっていくわけなんですけど、アルバムも残すはTohya曲です。
Tohya:「B.N.S.」はそれこそ配信で出した「DIGEST -Independent Blue Film-」や「Invisible」と同じ時期からあったんですよ。それでずっと智に呪いをかけるように推してたんです。この曲は良くなるぞ~って。だから会場限定シングルとして出すことが決まった時に、呪いが成功したなって思いました(笑)。フルアルバムに向かう曲としてまでは考えてなかったんですけどね。
智:楽曲としてはすごい好きだったんですけど、会場限定で出す曲としては全然違うなぁって思ってました。
Tohya:おっと(笑)。
智:やりきれるかな?って思いました。vistlipっていうバンドがこの曲を扱いきれるのかって疑問があったんですよ。ファンには人気なんですけどね。
Tohya:今のトレンドではないけど、ずっとやりたかったシリーズの曲なんです。人気曲になる自信もあった。智も言うようにvistlipでやれるのか?っていうのは同感で、アレンジも含めて構築を重ねていきましたね。デモの段階ではもっとシンプルなダークさが立ってたんですけど、サビメロが加わってから一気にvistlipらしくなっていきました。智の音域で言うと低い声から高い声っていう流れが一番魅力的な部分なんですけど、そこは変えずにアレンジャーの人と打ち込みの音を足していったことによって着地しましたね。
────この歌詞の中には『THESEUS』の主題である“嘘”っていう言葉がたくさん出てきます。
智:嘘ってなんだろうって考えたんですけど、嘘の連鎖ってあって…うーん、嘘の力を感じたんです。
────嘘の力?
智:幸せな嘘って本当にあるから。だから良くも悪くも嘘ってすごいなって思うんですよ。たとえば、演じて“君を愛してるよ”って言ってあげたとするじゃないですか?それでも満足する人がいるかもしれない。でも、嘘をついた方は実はすごく後ろめたくて、どっちかが幸せになったらどっちかがダメージを受けるんです。痛いんですよ、嘘って。自分個人としての在り方もすごい考えさせられることになったんですよね、これを書くことによって。
────天秤だと。
智:そうそう。世の中に何京、何垓という…億よりも上の上の桁の数えきれない嘘が日常に溢れてるんだろうなと。だけど、嘘でも幸せにさせてあげられたっていう事実があるならそれはプラスなわけじゃないですか。そんなことをぐるぐる考えてたらこんな歌詞になりました。嘘はあんまり好きじゃないし、嘘の当事者にはなりたくはないんですけど。
────そしてSEを抜くと最後の曲が「Parallax Pancakes」。これもまたサビメロの抜けが素晴らしいキャッチーで美しい曲ですが、「B.N.S.」の嘘を踏襲する世界です。それでいてここまで航海してきたテセウスの船の総括でもある。
智:これすごいコアな人しかわからないと思うんですけど、もともと地球平面説唱えたうちの一人を題材にしてるんです。噛み砕くと、全てを前向きに捉えて自分の夢を信じた方が楽しく生きられるよってことを伝えたくて書きました。でも?…っていうことです。
────………なるほど。だから、重要なワードに“?”がついてるんですね。
智:そう。
────これは歌詞を読みこんでほしいところですね。あと歌詞の中に“過去の切り分けたい場面”ともあります。都合の良い過去だけを抽出して生きることも可能だと思うんですけど、そういったマインドの推奨なのか警鐘なのかで捉え方もだいぶ変わるスリリングさを感じます。
智:なるほどね。「Parallax Pancakes」に関しては、都合のいいようにしたいねっていう方向でいいんじゃないかな。でも、実は俺自身が言いたいのは“本当にそれで良いの?”ってことだったりもする。解ります?
────…ちょっと一回整理していいですか?
Tohya:あははは!(笑)
────これ、ひょっとして「Parallax Pancakes」のメッセージと智さん自身の考えは実は一致してないんじゃないんですか?
智:そういうことです。歌詞に書いてることは俺自身が思ってることじゃなくて、あくまで『THESEUS』の主人公の想いなんですよ。ただ、その様と世界を音楽で表現することによってどう感じてほしいのかっていう部分に俺の想いがある。“これでいいと思う?”って。俺よくやるんですよ、こういう作り方。
────じゃあこの歌詞の中に智さんと本音って?
智:入ってないってないわけではない。だからこそ、逆に捉えてもらうことも構わない。要所要所ですかね。要所要所でギャップとして俺の本音を入れてるから、そこで違和感を感じてほしい。
────正直、ラストの展開はどっちに解釈するべきか解らなかったんですよ。
智:それでいいと思います。その変な気持ち悪さを感じたうえでその違和感を最終的に自分の答えにしてほしいです。
────Tohyaさんはアルバムの締めくくりとしていかがですか?
Tohya:この曲もずっとやりたかったテイストを入れてるんです。実は昔から出し続けていただけど採用されなかった曲を磨きに磨き、今回ようやく採用されましたね。もともとの構想は4~5年前からあったんです。だから個人的には新しさよりは懐かしさがある。「B.N.S.」とは違ってストレートなvistlip。
────意外ですね。そんな苦難を超えて今回アルバムのクロージングになったわけですが、選曲会で漏れていたのは何故ですか?
智:なんでだろう?
Tohya:…なんでだ?(笑)。良いと思ってたんですけどずっと選ばれなかった。でも、完成するまで智も“この曲だけあんま好きじゃねーな”みたいな感じでしたよ(笑)。智にずっと刺さってなかったんだなっていうのは伝わってました。メロディーと歌詞が乗ってアルバムに入ることで最後ようやく認められたかな。
────ピンとこなかった理由は?
智:単純にTohyaっぽいからです。Tohya自身を超えてほしいっていうのは常々思っているんで、いや、もっとできるでしょって思ってその先を聴きたかったっていうのがあります。
Tohya:メンバーみんなのお陰でようやくちょっと超えたぐらいじゃないですかね。
智;あははは!(笑)
────でも4、5年前の曲がアルバムの実質的なラストを飾るという行為自体が、ある意味では年月をかけても体を成しているテセウスの船そのものなんですよね。無理やり繋げるわけじゃないけど、そう考えると「Parallax Pancakes」ほどこのアルバムのラストに相応しい楽曲もない気がします。そして、本当の最後はSEの「左目から零れ落ちる涙。」です。
Tohya:『THESEUS』を締めくくるように旅から帰ってくるイメージです。悲壮感がありますよね。
智:涙が左側から流れるのって悲しい時なんですよ、これは諸説あるんですけど。それを旅の終わりのタイトルにしました。これはSEじゃなくて普通の曲のタイトルにしたいぐらいで、もったいないかなとも思ったけどアルバムを締めくくるにはこの言葉しかなかった。いろいろなものを見てきた主人公が、霧がかかった夜明けに船の上で左目から涙を流すんですけど、自分が信じてる希望みたいなものがきっとまだ残ってる。だからこそ涙が流れるんじゃないかな。
────希望がなかったら涙も流れはしないってことですよね。
智:うん。綺麗な心や希望が残っていないと悲しさすら感じられないから。そういう想いを込めたタイトルです。
────ありがとうございます。そして1月11日、12日、18日と東名阪をずばり『[Ship of Theseus]』というタイトルで渡ることになります。
智:『THESEUS』って曲の長さが短いんで、過去の曲も割とやることになると思うんですけど、そこの組み合わせも楽しみにしててほしい。あと、東名阪でセットリストを全く同じにはしたくないかな。すごい大変だし贅沢なんだけど、メンバーもそう思ってくれてるはず。
────『THESEUS』の世界に組み込まれることで過去の楽曲も顔つきが変わるかもしれないですよね。
智:これだけバンドをやってくると過去の曲にもスポットライトを当てたくなるんで、世界観を崩さないように組み込んでいきたいと思ってます。
────“テセウスの船”を題材に自由度の高い『THESEUS』という作品を放つわけですが、改めて今のvistlipにとってどんな作品になったと思いますか?
Tohya:アルバム自体は、これまで長くバンドをやってきて、その時その時で環境が変わってきたからこそできた作品にはなってると思うんですね。だから一つのアルバムとして聴くとあっさりしてる印象なんだけど、詰まってるものは結構重たい。長くやってきた歴史が刻まれている最新作だと思ってます。vistlipじゃなきゃこの作品は作れなかったと思うし、曲だけじゃなくて歴史が”俺たちはvistlipだ”って語っていることが『THESEUS』そのものですね。
智:Tohyaが言ったようにいろいろな景色を見たバンドじゃないと作れないアルバムになったと思います。あと、自信がないとこうはなってないのかな。烏滸がましいことは言いたくないけど、「Mary Celeste」とかはすごく大きな会場に映える曲だし、「Ceremony」なんかは渋いんだけど、俺たちならアルバムに入れちゃう。そこに変わらない要素を持った「Parallax Pancakes」もある。海と瑠伊の曲も非常に挑戦的だし、それがとにかく嬉しかったんです。『THESEUS』はみんながそれぞれの世界観を濃く出してくれたから俺も歌詞の面で全く違うことを書けた。一つの要素に縛られてないこの5人のメンバーがいるから『THESEUS』っていうアルバムが完成したんだと思います。
取材・文:山内秀一
★New Album「THESEUS」
2025年1月8日 On Sale
<CD収録曲 ※全タイプ共通>
01.Port Dorothy(Instrumental)
02.Mary Celeste
03.Dolly
04.Candy Sculpture
05.Fairy God Mother
06.Matrioshka
07.Ceremony
08.Fafrotzkies
09.B.N.S. [THESEUS ver.]
10.Parallax Pancakes
11.左目から零れ落ちる涙。(Instrumental)
【vister(CD+DVD)】 DCCA-137~138/4,620円(税込)
・特典DVD「Mary Celeste」MusicVideo
・トレーディングカード(全10種・ランダム)
【lipper(CD)】 DCCA-139/3,850円(税込)
・トレーディングカード(全10種・ランダム)
LIVE
■vistlip ONE MAN TOUR[Ship of Theseus]
2025年1月11日(土) 愛知/名古屋ElectricLadyLand OPEN 16:45 / START 17:30
2025年1月12日(日) 大阪/BIG CAT OPEN 16:45 / START 17:30
2025年1月18日(土) 東京/Zepp Shinjuku OPEN 16:30 / START 17:30
【前売チケット料金】
スタンディング 6,500円 (税込み・入場時ドリンク代別途)
【チケット発売中】
<イープラス>
https://eplus.jp/vistlip
★TOUR FINAL・Zepp Shinjuku公演の来場者特典が決定!
ご入場時に、QRコード・シリアルコードが記載されたカードをお配りいたします。
後日、Zepp Shinjuku公演の映像が一部配信されますので、なくさずにお持ちください。
※カードおよびシリアルコードはいかなる場合も再発行いたしかねます。
※カードはご入場時にお1人様1枚お渡しいたします。
関連リンク
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