【キズ×DEZERT】ライヴレポート◆2025年3月1日(土)日比谷野外大音楽堂◆ライバルは選べない────キズ×DEZERT、己の信じる“VISUAL”を掲げて両雄がぶつかり合い、高め合った一夜

令和のヴィジュアルシーンを牽引する代表的バンドとして、誰もが真っ先に名前を挙げるだろうキズとDEZERTの2バンドが、3月1日に日比谷野外大音楽堂にて『This Is The “VISUAL”』を開催した。2011年に始動したDEZERTに2017年に結成されたキズと、両バンドの活動歴には差があるが、各メンバーのキャリアは近しいものがあり、キズは一般からの電話相談受付や、来夢(Vo)が敬愛するボーカリストとセッションする動画『一撃』シリーズなど斬新な活動を展開。DEZERTは「Visual Rockに敬意を込めた大型イベント」としてを『V系って知ってる?』を日本武道館で行うなど、それぞれにヴィジュアルシーンを盛り上げるための施策を、これまでさまざまに敢行してきた。
そうして互いに切磋琢磨していくなかDEZERTは昨年12月に、キズは今年1月に初の日本武道館ワンマンを見事成功に導いた。それぞれにひとつの目標を達成した2バンドがガチで相まみえる初めてのステージということで、この日のチケットは早々にソールドアウト。そこで特筆すべきは、後攻となったキズの来夢がDEZERTのボーカル・千秋について語ったMCだ。
「千秋は……好きか嫌いかと聞かれれば……嫌いなほうに入ります。そう思ってたんですけど……嫌いというより、苦手かもしれないです。たぶん苦手なんだと思います。でも、ライバルというものは家族と一緒で、選べないことに気づいたんですよ。自分が“これだ!”って道をなりふり構わず突き進んで、隣にいる奴がライバルなんですよ。あいつ、いっつもいるんですよ!」
これほど“ライバル”というものについて、的確に表した言葉はないだろう。こうして自他ともに認める“ライバル”として走ってきた2バンドは、この日、自らの信じる『This Is The“VISUAL”』を真正面から鳴らし合った。
開演は17時。まだ明るい陽射しのなかで登場した先攻のDEZERTは、全身を白に包んだSORA(Ds)がドラムスティックを振り上げて渾身の一撃を鳴らすなり「今日、俺たちと音楽やろうって人、全員手をあげて!」と千秋が煽動。そして「俺たちは今日、確かに戦いに来てます。その相手はキズでも自分自身でもない、あなた1人です。あなた1人にライブしに来ました。よろしくお願いします。『This Is The “VISUAL”』始めます!」と高らかに宣言して、1発目から代表曲「「殺意」」をぶっ放した。千秋が“これは強い殺意殺意殺意殺意殺意殺意殺意殺意だ”と切り裂くようにリフレインすれば、オーディエンスは一斉にヘッドバンギングを繰り出し、拳を振る彼らに千秋は「まだ明るいな!」と声をかける。文字通り、ステージから容赦なくぶつけられていく強い殺意――しかし、それは“あなた1人と戦う”という強い愛情でもある。

「200パーでやりに来てるんですけど、200パーで返してくれませんか? そんなんでいいんですか? ある種、歴史的な日ですよ!」(千秋)と呼びかけての「「絶蘭」」では、ドゥームな重低音と反比例する甘く艶のあるボーカルで絶望の物語を描写。いわゆる“VISUAL”な世界観を繰り広げれば、続く「君の脊髄が踊る頃に」ではフィジカル面から“VISUAL”を体現していく。Miyako(G)とSacchan(B)の弦楽器隊がバキバキと鳴らす硬質な音に乗って、オーディエンスが激しく身体を折りたたみながら、メロディックに広がるサビで見渡すかぎり拳があがる様は実に爽快。曲終わりを“この世界で……生きようぜ!”と歌い替えた千秋は、さらに「いっぱい、なんか見つけて帰ろな。人生で見たことないやつ、いっぱい見つけて帰ろな、よろしく!」と伝えて、今日この日の特別なステージに対する気合いを表していく。


なんとも物悲しいMiyakoのギターをリズム隊が支えるブルージーな「異常な階段」に、切なさの中にも一筋の光が差し込んで客席に拍手を湧かせた「私の詩」とバラードを聞かせたあとは、キズが主催した本イベントについて千秋がMC。建て替えで閉館が延びた日比谷野外大音楽堂に「連れて来てくれたキズに感謝」と述べつつも「僕が来夢くんと仲良くない空気感があるんですけど……仲良くはない。でも、悪くもない。今日も話したから!」と、千秋が使っていた写真アプリを「それ、おっさんらしいで」と指摘されたというエピソードまで披露してくれた。さらに「あまりにもプロモーションをしなさすぎじゃない? このイベント。インタビューくらいあるかと思ってました。ないんです! それも“らしい”けど」と率直な想いを暴露して「今からやる曲、1曲だけ撮影OKにするから。その動画を電波に乗せて“盛り上がってるよ”って言ってやれよ!」と「大塚ヘッドロック」をタイトルコール。千秋いわく、好きなロックバンドが上げていた横モッシュの動画に「楽しそう」というコメントがついていたそうで、「何十年この界隈、横モッシュやってると思ってるんだ! これが本物の横モッシュってやつを世界に発信してくれよ! 見せてやれよ、俺たちの一体感を!」と煽られたオーディエンスは、懸命に撮影しながら横モッシュするという離れ業を見せてくれた。また「カメラチャンスでございますよ!」と始まった間奏では、Miyakoのギターソロに続いてSacchanがキズの「ストロベリー・ブルー」のサビを縦笛で演奏する場面も。そのカオスな様相は、ぜひSNSで検索してもらいたい。
「まだまだいきますよ! そんなもんですか、日比谷の皆さん! ガッカリさせないで! 不完全燃焼許さないよ!」と始まった「再教育」では“再教育です”のリフレインにクラップが湧き、拳が突き上がって、肌寒くなり始めた夜気を吹き飛ばすべくオーディエンスは熱狂。千秋もステージをぐるぐるとスキップし、SORAはドラムを滅多打ちしてエモーションを残らず吐き出していく。そして「時代なんて、なかなか変わらないと思うけど、一歩ずつ俺たちは行きますよ!」と明言しての「「君の子宮を触る」」で激しさと切なさの交錯という“VISUAL”らしさを堪能させ、クライマックスを前に千秋は神妙に語り始めた。
「武道館って場所、俺は“連れて行ってくれた”って言われるんだけど、確かに、そう思うの。俺は、連れて行った。俺たちの目的地に、お前たちが来てくれた。でも、お前たちにも目的地あるわけじゃん。そこで俺は“もっといい場所連れてってやる!”とか言えない。あんたらの目的地、知らないから。でも、いつだって本音だし、ココを出たら嫌な現実ばっかじゃん! その現実のなかを一歩一歩歩いていって、苦しいときに俺たちの音楽があればいいと思うわけ。あんたたちが一歩ずつ進む現実のお助け、お手伝いをさせてもらえればいいと思います。それが『This Is The “VISUAL”』です。俺らならできると思う。14年やってるんだよ? 大丈夫だよ! お前たちならできるって信じてます。
そして武道館終わって、元気だったの2日くらいかな。実家帰って、すごく鬱になったよ。みんな生きてる理由、探してる。みんな忘れるから何度でも探していこう。一生、音楽をやりましょう。生きてて良かったって瞬間をより多く見つけたもん勝ちだと思うわけ。悪いことより、いいこと探していこうよ! それがお互い、まずは今日であることを願ってます」

そう伝え終えてから、暗くなった空の下で贈られたのは「TODAY」。理想と現実の狭間で苦しみながらも“生きててよかった”と思える夜を探していると歌う千秋のボーカルには、物語を読み聞かせるような優しさがあり、それを低音で支える楽器隊のタイトなプレイも光る。曲終わりを“僕”ではなく“僕らが踏み出す一歩”と歌い替え、「一歩ずつ行こうぜ! すぐには良くならんよ!」と心からのメッセージを伝えると、ギターを抱えた千秋が弦楽器隊を従えてリフをぶっ放したラストソングは「神経と重力」。完全に陽が落ちた野外のステージで白いライトに照らし出され、緊張感の張り詰めたパフォーマンスで“強くなりたい”“愛してほしい”と切実な願いを吐き出す4人を前に、オーディエンスは微動だにせず息をひそめて立ち尽くす。そして“ああ、生きてこそ”と、しゃがみこむ千秋をブルージーなギターフレーズが搦め捕り、最後にSORAが「ありがとう! キズ、これからもよろしくな!」と舞台を去って、DEZERTのライブは終幕。彼らが残した“生きてこそ”のメッセージは、奇しくもそのまま後攻のキズにも引き継がれることとなった。


舞台裏から気合入れの声が轟き、暗転してメンバーが順に登場すると、きょうのすけ(Ds)はドラム台に立ち上がって、さっそくオーディエンスを煽り立てる。彼らの背後にそびえる全面LEDに三本の赤い“キズ”が映し出され、長いオープニングSEから続いたのは最新シングル「鬼」だ。アカペラ始まりから朗々と声を張り上げる来夢、岩のように硬いスラップを放つユエ(B)、舞台上を闊歩しながらもソロでうねりを上げるreiki(G)と、相変わらずの己を貫くプレイに場内からはクラップが湧き、来夢は歌詞を引用して「だりぃよなぁ!」と声をあげる。「全然たんねーじゃん!」とオーディエンスを挑発しつつ、ひたすら“生きていたい”と歌い綴ってDEZERTのライブとも絶妙にシンクロしながら、衝撃的だったのは“この命をくれてやろう”というフレーズの痛切すぎる響き。そこには何の誇張もなく、彼らが命を賭して“ライバル”とのステージに臨んでいることが、ひしひしと伝わってくる。

そこから「おい、寒いから飛ばしていくぜ!」と来夢がギターをかき鳴らした「平成」では「死ぬ気で来い!」とヘッドバンギングを誘い、「声くれ! お前らの存在を見せてくれよ!」と求めて、客席を熱狂の渦に叩きこむ。「鬼」で“生きていたい”と訴えた直後に“一緒に死のうよ”と繰り返すギャップは半端ないが、曲中で「日比谷! 命燃やせるか!? 俺と一緒にヴィジュアルロックのために命燃やせるか!?」と発破をかけたことからもわかるように、この曲における“死ぬ”とは命を燃やす――すなわち“生きる”ということに他ならない。ガサついた声で「俺と一緒に……死んでくれるか、日比谷!」と放たれる来夢の叫びは凄まじい反語となり、曲を締めくくるreikiのキレあるギターと共に、オーディエンスの心に消えない爪痕を残していく。

その後も、4人はキズというバンドの真なる核を、さまざまなベクトルから照射。「かざせ、日比谷!」とオーディエンスの手を掲げさせた「ストロベリー・ブルー」では、異世界を映す映像にメンバーのシルエットが重なって、なんとも神秘的な世界観を生みだしていく。さらに、手数の多いドラマティックなドラムプレイにワウギターが続いて、約束の“あの場所”へと駆け上がると、そのまま「俺の声に応えてくれ、日比谷!」と間髪いれず「地獄」を投下。聖なる映像は一瞬にして血の色の真紅に塗り替えられ、「首置いて帰れ!」と命令されたオーディエンスは懸命に首と身体を振りたくる。「救われたい奴だけ……救われたい奴だけついてこい!」というおなじみのフレーズは、もちろんこの日も健在で、むしろ「生きてんの、そこ?」と客席を詰問する始末。スクリーンに映る楽器隊のシルエットも暴れまくり、たとえ対バンだろうとまったく手加減のないスタンスを明かしていく。

ここで「今日の一番の宿敵は花粉かもしれないです。やべーよな、花粉!」と、自身が花粉症であることを明かした来夢は、「タイトル『This Is The “VISUAL”』ということで、タイトルを聞けば伝わると思ったので、何もプロモーションしませんでした」と千秋のMCに返答。そしてアカペラ始まりで披露した「黒い雨」の曲中、LEDに歌詞を映しながら何度も「歌えるか!?」と求めた来夢は、曲終わりに「届いてるか!? 俺の歌が! 届いてますか!?」と問いかける。歌と歌、声と声のシンクロニシティを果たし、続くデビュー曲「おしまい」ではオーディエンスが一斉にジャンプして物理面での一体感を証明。「これがヴィジュアルロックだ!」と宣言した来夢は、しかし、青いライトとスモークの中から現れるや「俺の耳が腐ってんのか? 声がちいせぇぞ!」と客席の声に耳を澄ませ、「豚になれ!」と放った「豚」で客席を狂乱させる。拳を振って跳ねるオーディエンスを、バッハの「小フーガ ト短調」のメロディを交えたギターソロでreikiが煽れば、きょうのすけも懸命にドラムスティックを振るい、ユエに至っては暴れすぎて大きく脚を振り上げ、曲終わりにステージに倒れ込む場面も。さらに「日比谷! まだいけんのか? いけるよな、てめぇら!」と「リトルガールは病んでいる。」になだれ込んで、シリアスな詞世界と痛快に暴れるオーディエンスという、まさに“VISUAL”ならではの光景を存分に体現していった。


そして「あいつ、メッチャ喋りすぎや! いつもあんな喋るんか」と千秋のことを揶揄し、冒頭のライバル論をMC。「あいつ、いっつもいるんですよ!」というのは、つまり逆も然りであり「僕が今日、言いたいことは……これからもDEZERTのファンからすれば僕は登場します。皆様の人生に登場します。なので、ちょっとでも……好きになってくださいは違うな。なんか感じ取ってください。そんだけです!」と、DEZERTファンに断りを入れた。さらに、曲に行こうとした瞬間「ちょっと待って!」とストップをかけ、「あいつ、なんか撮らせてたじゃん。わかったんです。データフォルダに推しがいるって、すごくいいことだなって」と、今、自身のデータフォルダにボクシングの井上直哉選手がいることを告白。「辛いときがあったら、花粉症の中でも頑張って歌ったボーカルを思い出して頑張ってください。それだけです」と、続く「鳩」で急遽撮影の許可を出した。キズのレパートリーの中でも、じっくりと歌を聞かせるバラード曲を朗々と歌い切って、来夢は「いろんなヤツに見せてくれ! お前らの推しが最強だってことを!」とリクエスト。事実、現在SNSにはエモーショナルな演奏シーンや曲中で語らう4人の微笑ましい映像があふれているので、ぜひ、チェックしてみてほしい。
そこからは「スマホしまえ! やるぞ!」と灼熱のエンディングへ。ステージから放射されるレーザー光線の下、「蛙-Kawazu-」で頭を振るオーディエンスも楽しそうなら、演奏される音も文字通り躍って、アウトロでは来夢がreikiをバックハグ。「もう、あんまねぇぞ。まだ残ってるなら出せよ。全部俺らが受け取ってやる!」と、武道館で初披露されたばかりの最新曲「R/E/D/」では、早くも客席からクラップが湧き上がり、サビではヘドバンを繰り出して、すでにファンへと深く浸透し始めていることを示してみせた。そのサビにある“紅い傷痕”という歌詞から繋がるように、「いけんのか!?」と最後に贈られたのは「傷痕」。大きな旗を掲げて、お立ち台に這いつくばって頭振りながら歌う来夢の喉は限界を迎え始めていたが、だからこそ生まれる“君の中で生きたい”という魂の叫びには、キズとDEZERT双方のファンが心を揺さぶられたに違いない。
曲が終わるとLED画面には『キズ×DEZERT This Is The “VISUAL”』とライブタイトルが大きく映し出され、「この先も期待しててくれ! ありがとうございました!」と来夢が挨拶。これぞ己の信じる“VISUAL”であるという強い信念を掲げて、互いに発奮し合う両バンドは、これからもシーンを活性化し続けていくに違いない。

文◎清水素子
撮影◎小林弘輔( @style_k_ )
SET LIST
DEZERT
1.「殺意」
2.「絶蘭」
3.君の脊髄が踊る頃に
4.異常な階段
5.私の詩
6.大塚ヘッドロック
7.再教育
8.「君の子宮を触る」
9.TODAY
10.神経と重力
キズ
SE
1.鬼
2.平成
3.ストロベリー・ブルー
4.地獄
5.黒い雨
6.おしまい
7.豚
8.リトルガールは病んでいる。
9.鳩
10,蛙-Kawazu-
11.R/E/D/
12.傷痕
キズ INFORMATION
2025年4月9日(水) RELEASE
LIVE DVD『キズ 単独公演「焔」2025.1.6 日本武道館』
https://ki-zu.com/discography/
関連リンク
【キズ OFFICIAL】
◆Official Site:https://ki-zu.com/
◆Official X:https://x.com/ki_zuofficial
◆Official Youtube Channel:https://www.youtube.com/@kizuofficial
◆SUBSCRIPTION&DOWNLOAD:https://ki-zu.com/digitalmusic/
DEZERT INFORMATION
<映像配信>
DEZERT SPECIAL ONEMAN LIVE at NIPPON BUDOKAN「君の心臓を触る」
U-NEXT独占見放題ライブ配信
ライブ配信:2025年3月30日(日)19:00~
見逃し配信:配信準備完了次第~2025年4月6日(日)まで
https://t.unext.jp/r/dezert
<商品情報>
2025年5月14日発売
Blu-ray
『DEZERT SPECIAL ONEMAN LIVE at NIPPON BUDOKAN「君の心臓を触る」』
https://www.dezert.jp/discography/detail/5015/
DEZERT オフィシャルサイト https://www.dezert.jp
DEZERT YouTubeチャンネル https://www.youtube.com/dezert_official
DEZERT 公式 X(旧Twitter)https://x.com/DEZERT_OFFICIAL
DEZERT 公式 Instagram https://www.instagram.com/dezert_official/
DEZERT オフィシャルファンクラブ「ひまわり会」 詳細はこちら https://www.dezert.jp/feature/entry