【CANARY COMPLEX(カナリー・コンプレックス)】スペシャル独占インタビュー!◆90年代ヴィジュアル系の美学を受け継ぐ、アメリカ産アーティスト、CANARY COMPLEXが4月24日にアルバム『A Whisper of Spring』で衝撃の日本デビュー!

アニメやコミックなど、世界中で高い人気を誇る日本発祥のサブカルチャー。最近では70~80年代に制作されたシティーポップなど、日本産の音楽にも注目が集まっている。そんな中、日本の音楽に多大な影響を受けたアメリカはノース・カロライナ出身のアーティスト、CANARY COMPLEX(カナリー・コンプレックス)が最新アルバム『A Whisper of Spring』を4月24日にリリースした。CANARY COMPLEXはCanary Kasey(カナリー・ケイシー)によるプロジェクトで、この作品が彼の日本デビュー作となる。特に日本のヴィジュアル系アーティストに衝撃を受けたCanary Kaseyが作り出す音楽は耽美でトラジックでありながらも美しい世界観が特徴だ。加えて、UKロックやシャンソンなどの要素も加えられたハイブリッドなサウンドはとてもユニーク。しかし、そのメロディーは我々日本人には非常に親しみやすく感じられるのが面白いところだ。彼がどのようにして創作活動をスタートさせたのか…びじゅなび編集部は、日本文化をこよなく愛するCANARY COMPLEXに日本メディア初のインタビューを敢行! その創作意欲の源を探ってみた。
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動画サイトでKagrra,の「皐月」を見つけたのが、僕のヴィジュアル系との出会いだったんです
────まず、Kaseyさんが音楽に興味を持ったのはどういうキッカケだったんですか? また、最初はどういう音楽を聴いていたんでしょうか?
CANARY COMPLEX:僕の父はカントリー・シンガーで…カウボーイ・ハットにブーツっていう、まさにアメリカ人そのものなんだけど(笑)、彼が僕にいろんな音楽を教えてくれたんです。ギターとかの楽器も教えてもらいましたし。で、最初はドッケンやスキッド・ロウ、モトリー・クルーといったLAメタルのアーティストを聴いていたんですけど、ある日、父が日本のバンドでラウドネスのビデオを見せててくれたんです。ギター(高崎晃)がとにかくスゴくて記憶に残ってますね。そして15歳の頃、アニメ『るろうに剣心-明治剣客浪漫譚-』のテーマソングでTM.Revolutionの曲(『HEART OF SWORD ~夜明け前~』)を動画サイトで探していく中で、Kagrra,の「皐月」を見つけたんです。これが僕のヴィジュアル系との出会いだったと思います。もうギターもベースもボーカルも、自分がこれまで聴いてきた音楽とは全てが違っていて…まさにヴィジュアル系と恋に落ちた瞬間でした。
────最初はKagrra,の音楽に衝撃を受けたんですね。音楽的に全てが違っていたとのことですが、そこにどんな魅力を感じたんでしょうか?
CANARY COMPLEX:コード進行やハーモニーが全然違うと感じました。あと、彼らの中性的な雰囲気やメイクアップ、もちろん音楽的にも新しいことをしようとする姿勢にもインスパイアされましたね。
────特にヴィジュアル系のバンドはメイクや衣装も含めて、それぞれの音楽性を表現していると思います。アメリカでもビジュアルと音楽性が密接に結びついてアーティストはいたと思うんですが(80年代のLAメタルはその典型と言える)、最近はどう捉えられていると思いますか? 特にCANARY COMPLEXのサウンドはかなり独特な存在だと思います。
CANARY COMPLEX:そうですね。最初はCANARY COMPLEXの音楽というのは、やっぱり、アメリカのオーディエンスをターゲットにするより、南米やヨーロッパ、日本の人達に理解してもらえると思ってました。
────特に日本ではCANARY COMPLEXの音楽性は全く違和感がないように感じます。ちなみに、先ほどはKagrra,の音楽で衝撃を受けたとおっしゃってましたが、ご自身がいちばん影響を受けた日本のアーティストはいますか?
CANARY COMPLEX:LUNA SEAやMALICE MIZER、KAMIJO、LAREINE……そういったアーティストからたくさん影響を受けました。彼らが僕自身の作曲やギタープレイの入口になったと思います。実は僕はシンガーというより、ソングライターやギタープレイヤーとしての意識が強いんですね。彼らがやっていることを通して、自分自身を表現する方法を教えてもらったと思います。

────面白いのは日本のヴィジュアル系だけではく、楽曲の中には80年代のUKサウンドの影響も感じます。
CANARY COMPLEX:日本の音楽は、とにかく西洋の音楽とは全く違っているので、とても新鮮でしたね。でも僕は、80年代のUKで生まれたポジティヴ・パンクのザ・キュアーやエコー・アンド・ザ・バニーメンといった中性的な要素を持つバンドも親しんで聴いていたんですよ。
────UKのゴシック系アーティストも退廃的なヴィジュアルでしたね。そこに影響を受けたヴィジュアル系バンドも多いんですよ。
CANARY COMPLEX:たぶんアメリカの人達にはあまり理解できないかもしれないですけど、自分にとっては、美しい衣装を纏うのはすごく自然なことなんです。
────おそらく年代的にはリアルタイムではないと思うんですが、80年代のUKロック…ポジティヴ・パンクやゴシック系の音楽を知ったのはどういうキッカケだったんですか?
CANARY COMPLEX:僕はすごくラッキーだと思います。父がカントリー・ミュージシャンだったこともありますけど、彼はすごく音楽の趣味がよくて。「見て、こんなメイクをしたダークなバンドがいるよ」って子供の頃に教えてもらったりしてました。だから80年代のUKロックはヴィジュアル系を知る前から聴いていたんです。
────そもそもLUNA SEAのメンバーも80年代のUKサウンドをリスペクトしてますしね。実は最近、80年代のUKロックに影響を受けたゴシックなバンドがDARK WAVEと呼ばれ、アメリカの各地で増えていますよね。TWIN TRIBES(テキサス州出身のユニット。80年代のUKエレクトロサウンドを思わせる)などは代表例ですが、そういうムーブメントについてはどう感じてますか?
CANARY COMPLEX:すごくいいことだと思います。そういったバンドのいくつかは僕も聴いているんですけど、自分がいちばん影響を受けているのはあくまでヴィジュアル系なんですよね。80年代からの影響を受けているバンドの多くは、守らなければいけないコードがあったりして、意外とそこまで音楽制作には自由度がないと思う。僕がヴィジュアル系に惹かれたところは、自由さなんですよね。だから、CANARY COMPLEXはアメリカのDARK WAVEのようなシーンとはちょっと違うところにいると思います。

日本のヴィジュアル系アーティストはこの世界中のどのジャンルのアーティストより、音楽とイメージの世界観を作ることを理解していると思う
────CANARY COMPLEXの面白いところは、シャンソンの影響も強く感じられる部分ですね。シャンソンのどういうところに魅力を感じますか?
CANARY COMPLEX:僕が小さい頃、シャンソンのCDだけでなく、印象派の画家の本も持っていたんです。その本を見ながらシャンソンを聴いていたんですけど、実は、MALICE MIZERやLAREINEの音楽を聴いた時に彼らの音楽は印象派の絵といちばんマッチした音楽だなと感じたんです。僕自身もどうしてかわからないんだけど、小さい頃からフランスのシャンソンには惹かれるんですよね。
────では、実際に音楽活動を始めたのはお父さんの影響もあるし、非常に自然なことだったわけですね? 作曲はいつから始めたんですか?
CANARY COMPLEX:14,15歳でヴィジュアル系と出会った頃から作曲し始めました。それまではオモチャみたいな感覚でギターを弾いたりしていたんですけど、ヴィジュアル系を知ったことで、音楽を表現したいという目的が見つかったんです。LUNA SEAやDIR EN GREY、X JAPANの楽曲からもいろいろ学びました。
────ところでアーティスト名のCANARY COMPLEXにはどういう意味を込めているんですか?
CANARY COMPLEX:これはすごくコンプレックスに感じることなんだけど(苦笑)、炭鉱で地下に行く時、カゴに入れたカナリアを持っていくことを知ってますか? 酸素がなくなってくるとカナリアは歌わなくなるから、この先は危険だとわかる。だから引き返そうっていうサインになるんです。
────知ってます! カナリアには可愛そうですが、今でもそういう目的で使われますよね。
CANARY COMPLEX:2017年頃、個人的につらいことがあったんですけど、その時に悲しい出来事が起こることを察知してくれるカナリアがいたらいいのに…って思ったんですね。もしその時、セラピストに自分を診てもらったら「あなたはカナリア・コンプレックスですね」って言われただろうなって思って。それをアーティスト名にしました。

────それではここでニュー・アルバム『A Whisper of Spring』について伺いたいと思います。この作品の中で、Kaseyさんがいちばん表現したかったことはどんなことですか?
CANARY COMPLEX:たぶん、MALICE MIZERからの影響もあると思うんですが、彼らは個人的なトピックを取り入れた、とても素晴らしい曲を書いてきましたよね。僕がアルバムを制作した頃、すごく悲しい思いをしていた時期だったんです。それでも美しいものを生み出したくて、デジャヴのように感じたこと……決して取り戻せない思い出、誰かと恋に落ちるとか、いろんな気持ちを表現したくて、そういう曲を書こうと思ったんです。
────その切なさ、物悲しさは、Kaseyさんが好きなシャンソンにも共通している気がします。シャンソンはその多くが、ほぼ悲しい歌なので。
(ここで彼はアルバム。ジャケットを手にする)

────それはアルバムのジャケットですね? すごく美しい仕上がりですが、Kaseyさんにとってはアートワークも非常に重要な作品の要素だと思います。やはり音楽を表現するためには外せないものですよね?
CANARY COMPLEX:日本のヴィジュアル系アーティストはこの世界中のどのジャンルのアーティストより、音楽とイメージの世界観を作ることを理解していると思います。イメージや音楽、アートワーク、そのすべてマッチさせることはとても特別なこと。MALICE MIZERやLAREINEといった、特に90年代のヴィジュアル系バンドと一緒で、音楽性とヴィジュアルをマッチさせることは、僕にとっても非常に重要な要素なんです。
────すごくよくわかります! 時間があればアルバムの曲について全部語っていただきたいところなんですが、時間の関係上、ここでは特に思い入れの強い曲についてお話してもらってもいいですか?
CANARY COMPLEX:アルバムの曲はどれも大切で、アルバム全体を表現するピースのひとつなんです。でも、アルバムを代表して1曲選ぶのなら「Deshabillez-moi」ですね。というのも、これはアルバムをリリースする前に出したシングルでもあるので。この曲はロマンチックでノスタルジックで、ちょっと悲劇的でもあるんですが、僕はこの曲にフランスのエレガントな要素とヴィジュアル系のドラマチックな部分を取り入れたかったんです。そのために、この曲では日本のアコーディオン奏者の方にお願いして弾いてもらいました。