【ライヴレポート】無念の強制終了。新世代ヴィジュアル系元年最終章「KHIMAIRA」O-WEST◆CHAQLA. / MAMA. /nurié / まみれた /色々な十字架 / 「#没」が凌ぎを削った歴史的事変。
4月に始動したヴィジュアル系若手対バンシリーズ「KHIMAIRA」。
ほぼ毎月250キャパの池袋EDGEで開催されてきたが、これまでYUKI-Starring Raphael-、Royz、DaizyStripper、deadmanといったSPECIAL GUESTバンドが登場し常軌を逸した熱狂を生みだしたが、10月公演にはついにMUCCが出演。圧倒的な存在が降臨し歴史的な一夜になると共に、憧れの存在は決して消えない大きな傷をつけた。そしてその傷はこのイベントに選ばれた若手バンドが未来を掴む道しるべでもある。
「KHIMAIRA-SCUM PALACE-」、会場をSpotify O-WESTに移した“クソったれ達の宮殿”。あえてゲストバンドなしで臨んだ決意の一夜。
CHAQLA. / MAMA. / nurié / 色々な十字架 / 「#没」…そしてまみれた。
新世代ヴィジュアル系元年最終章にしてあまりに残酷な結末をありのままにお届けする。
●「#没」
九州を拠点にする「#没」。
前回開催の「KHIMAIRA vol.6」にて本シリーズ初出演となったが、その愚直な人間性と泥臭いパフォーマンスは細かいことを抜きにして超満員の会場に見事受け入れられた。初見キラーともいえる泥臭さは、二度目の離れ業を成功させるのかだろうか。
自身初の大舞台にも臆することなく「チヨコレヰト パレヱド」からこの日の口火を切る。歌謡的なメロディで会場を包み挨拶を済ませると童謡「さくらさくら」を導入にした「君死にたまふことなかれ」の和要素満載の展開で、早くも前回出演時とは異なる引き出しを見せる。
エロティックながらゾクっとさせる描写が短編映画のようなエグみがある「画鋲とオトメ」、ワイルドで低重心な「ドグラ・マグラ」と勢い以上にクセの強さが際立ったメニューは「#没」の多面性を十分に感じさせるものだった。
▲不破(Vo)
クセになると言えば執拗に繰り返される“僕たちは没になりました”のコール&レスポンスが波及する「#没個性障害」の破壊力が印象的だったが、途端にデジ要素を用いた「SMOKEY EGOIST」を披露し、その実態を掴ませず翻弄する。また、緊急でサポートを務めた拓人(Dr/-鴉カラス-)も不破(Vo)、NOEL(Gt)、百春(Ba)のポジティヴなアグレッシヴネスを見事に支えてみせた。
元マジシャンである不破がマジック用に鳩を持ち込もうとしたところ、会場NGを喰らったというMCでも爆笑をかっさらったが“俺たちの信じるヴィジュアル系を証明する”の言葉通り攻撃的なステージを展開。
▲NOEL(Gt)
▲百春(Ba)
ラストは「劣等プロパガンダ」。彼らの支持者である“劣等生”を鼓舞するパンキッシュな一曲のたゆまぬ衝動と眩い青春感をこの日も見事に会場全体に届けてみせた。
音楽の本質は誰が鳴らすかであることを見事に体現し、彼らは持てるものを全うした。
●「色々な十字架」
東京キネマ倶楽部ワンマンを完売と、今ノリにノッている色々な十字架だが最も大きいトピックは自身二枚目となるフルアルバム『1年生や2年生の挨拶』のリリースだ。彼らの秩序と倫理が乱れまくった世界を知らしめた「良いホームラン」や「TAMAKIN」のハードルを軽く飛び越えた作品は彼らのミュージシャンシップの高さを強く感じさせる。
この日はそんな新譜からの楽曲を中心に披露。リリース後初の対バンライヴにも関わらず浸透度の高くない楽曲を選ぶあたりにも、彼らの自信と好戦性が見える。思えば事前にオフィシャルXアカウントでは「全員八つ裂きのほど、よろしくお願い申し上げます†」と実に“らしくない”コメントもあった。もちろんこれも色々な十字架流のジョークの一環とも言えるが、そのステージは段違いに進化を見せるものだった。
▲tink(Vo)
これまで以上に90年代深部へタイムトリップさせる「ごぼう」、疾走する「繋がれた脳と線路という名の檻と赤」、随一のハードチューン「かなり耽美(決定)」と超攻撃的なメニューに続いたのは、2.5次元系ミュージカルにインスパイアされすぎた魔曲「GTO」とコミカルな要素も忘れない。
実在するホームセンター名を繰り返すだけなのにとてつもないエモーショナルが襲いくる名曲「LOST CHILD」しかり、以前より定評があった演奏力以上にバンド力の向上は目を張るものがあった。tink(Vo)によるドローイングはもちろん主軸なのだが、その周囲を囲むように幾本も柱が立っていることが判る。
▲tacato.(Gt)
▲kikato(Gt)
▲misuji(Ba)
▲dagaki(Dr)
ネタバンドを隠れ蓑にできないそのクオリティは脅威的で、ラストの「凍らしたヨーグルト」まで“なんでもあり”のヴィジュアル系を体現するステージで実力を見せつけた。
●nurié
随分とモデルチェンジしたな。それが第一の印象だ。
大阪を拠点として活動するnuriéにとって今年は分岐点になる出来事が多かった。盟友であるCHAQLA.とMAMA.と敢行した<漢上げツアー>はまさに三本の矢の強固さを知らしめるものだったのだが、その裏ではライバルたちの躍動に苦汁を飲むことも付き纏った。否定に付き合うな。己の道を貫け。そう言い聞かせるような心機が伺える「自分賛歌」からフロアをアゲていくと「Firebomb」、「OVERKILL」とハードなナンバーを連発していく。
nuriéはその作曲センスと抜きんでたスキルを武器にジャンルレスなアプローチを仕掛けるバンドだ。ハードナンバーにおいても短絡的な展開に陥ることはなく、サウンドメイクではなく構成力で奥行きを増していく。
▲大角龍太朗(Vo)
その最たる魅力に帰結したことを強調するように、なんとここからほぼミドルチューンやバラードナンバーのみでラストまで駆け抜けた。
▲廣瀬彩人(Gt)
「夜の所為にして」から「生きてて偉い」まで5曲を連ねたブロックは陰影が深く、大角龍太朗(Vo)の詩世界を強調するものだった。またそのシルエットが大きな会場に映えるものだったことも特筆したい。
▲染谷悠太(Dr)
メロウな楽曲に微熱をなぞられていく会場。アツさではなく温もりを掲げたnuriéは抜群の説得力で大きな山ではなく、深い谷を作ることでイベントに鮮烈な爪痕を残した。
●SECRET BAND
シークレットバンドの正体はまみれた。
10月に「詰と伐」名義でのワンマンライヴをオープニング途中で中止、まみれたの電撃復活を告げるニクい演出で大きな話題を呼んだ。
幕が開き、喪服に雪駄という不謹慎極まりない出で立ちで登場した伐(Vo)の“まみれたです!”の咆哮に歓声が上がると「死因:暮らし」からライヴをスタート。
煽り散らかし暴れ狂う破滅的なステージはまさに暴君そのもので、シークレットとは思えない狂乱を生み出す。“KHIMAIRAどうしちまったんだよ?そんなんじゃ足りねえんだよ!!”と熱源に燃料を浴びせ続けるストロングスタイルは健在で、彼らの登場を予想していた者、そうでない者の隔てはそこに意味を為さない。
▲森田(Dr)
▲かる。(Ba)
▲隆世(Gt)
隆世(Gt)、かる。(Ba)、森田(Dr)の楽器隊もそれぞれに異なるベクトルで轟音リフの中を泳ぎ遊ぶ。この日披露したのは全5曲だったが、床下から這いずりでてきたアンダーグラウンドダークヒーローとして余りある名アクトでこのイベントに深い楔を打ったのではないだろうか。“喘げ喘げ!”と迫った必殺曲「お邪魔します」が炸裂するまであっという間に持ち時間を駆け抜けた。
▲伐(Vo)
その存在自体が劇薬のようなバンドの帰還はシーンにとって歓迎するものだろうか?その暴君っぷりと礫のように歪まない強烈な個性は、再び地図を黒く塗り替えてしまうかも知れない。そんなことを思わせる嵐のような時間だった。まみれたという名のイデオロギーの再来に拍手を贈りたい。
●CHAQLA.
まみれたが起こした熱狂に最も触発され、己のエネルギーに変換できるバンドだったのかもしれない。
5番手はこのイベントを護り共に育ってきた象徴的な存在=CHAQLA.だ。
「お邪魔します」のイントロをパロって小粋に沸かせると“出演してくれたバンド素晴らしいライヴをありがとう!良い波動を纏ってます!”とダンサブルな「ミスキャスト」から小気味よく会場の空気を束ねていく。お馴染みの振付の浸透度も抜群で、CHAQLA.が今年の精力的な活動で得たものの強靭さを感じさせた。
▲ANNIE A(Vo)
柔のnurié、剛のまみれたとライバルのステージに対してアンサーするようにオリジネイターとして貫禄を見せる。また彼らの呼吸が成す独特のグルーヴは爆発的な威力を誇り、緩急も実に巧みだ。
▲鷹乃助(Ba)
終盤「PLAY BACK!!」ではのあか(Gt)はステージを転がり、kai(Gt)もギターを放り投げる奔放っぷり。衝動に忠実に、本能に従順に従うCHAQLA.のライヴは5人のカリスマ性と相まって無二の手触りに昇華される。ヴィジュアル・楽曲・アートワークのいずれもが鮮やかで光あるものだが、そのどこをとっても形容不能なもので、CHAQLA.の存在こそが現象であり、ヴィジュアルロックのDNAの純度の高さを感じさせる。
▲のあか(Gt)
▲kai(Gt)
ANNIE A(Vo)が“ヴィジュアル系これから始まるぞ!”と叫んだ通り、その熱狂に巻き込まれるオーディエンスの姿が未来を雄弁に語っていたのではないか。
▲Bikky(Dr)
“愛の証明がそんなに要りますか?”と歌う「愛」まで彼らの1年10ヵ月の道のりのなかでも圧巻のベストアクトで魅せた。どこまでも末恐ろしい存在である。
●MAMA.
トリを務めたのはMAMA.だ。
CHAQLA.と同様に「KHIMAIRA」の絶対的エースとして君臨してきたが、MAMA.もまた急激な進化を見せた存在と言える。
外的な刺激を変換しぶちまけるCHAQLA.と対照的に、MAMA.は己の世界の中で完結した言葉を丁寧に紡ぎ深淵に誘う。
扇動力に磨きをかけた「MARIA」、組曲のような複雑さで飲み込む名曲「NOPE.」と干渉を許さない冷気で切り裂くようなステージでジワジワと闇に蝕んでいく。
命依(Vo)の地の底から湧き出るような歌唱も冴えわたったが、本来この日に孔雀座としてステージに立つはずだった或(Support Dr / ex.孔雀座)が束ねるアンサンブルは見事で、ダイナミズムに乗じて4人のメンバーがいつも以上に激しく躍動する。
▲命依(Vo)
▲かごめ(Gt)
▲真(Ba)
だが、「命日」のイントロでハプニングが生じた。激しいアクションを見せた命依が小指を機材と衝突させてしまったのだ。気がつかず歌唱していたが、指を目にすると静かにステージから去った。カットの深さと流血の状況的に無念の強制ストップだ。
騒然とする空気の中、メンバーが落ち着いたMCで場を掌握すると、 “大丈夫だから!アイツ死なねえから!”、“大丈夫だから!心配しないで!俺たちをカラオケにして歌ってください!”とJiMYY(Gt)がジョークを交えて機転を利かせてみせた。
結果的にラストに予定されていた「PINK MOON.」を集結したオーディエンスの大合唱共にやり遂げた。大いに不本意な結末ながら、彼らのバンド力とオーディエンスと結束を見せる心が震えるシーンでもあったといえる。
▲JiMYY(Gt)
その後、命依はこの日出演した仲間に囲まれながら救急車で搬送されたが、乗り込み際にその中指を立てていたことは記しておきたい。
想像もしない結末となった新世代最終決戦。
だが、出演した全てのバンドが悔いを残さずに魂と肉体をぶつけ合う乱打戦は、どのバンドも過去最強の状態であることの証明でもある。
時代の変わり目と呼ぶにふさわしく「KHIMAIRA-SCUM PALACE-」は終演した。
暴発寸前のパッションが生み出したたしかな渦は来年以降さらに大きくなっていくだろう。そして“この夜の続き”を取り戻す日々が始まる。
彼らが誇りを賭けて闘ったこの時間が未来への道しるべになることを願ってやまない。
Text:山内 秀一
Photo: Megumi Iritani
SET LIST
◆「#没」
1.チヨコレヰト パレヱド
2.君死にたまふことなかれ
3.画鋲とオトメ
4.ドグラ・マグラ
5.「#没個性障害」
6.SMOKEY EGOIST
7.劣等プロパガンダ
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◆色々な十字架
1.ごぼう
2.繋がれた脳と線路という名の檻と赤
3.かなり耽美(決定)
4.GTO
5.LOST CHILD
6.凍らしたヨーグルト
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◆nurié
1自分賛歌
2.Firebomb
3.OVERKILL
4.夜の所為にして
5.モノローグ
6.晴天に吠える。
7.冷凍室の凝固点は繋ぐ体温
8.生きてて偉い
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◆まみれた
1.死因:暮らし
2.だるまさん
3.死因:わからん
4.死因:被害妄想
5.お邪魔します
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◆CHAQLA.
1.ミスキャスト
2.Liberation-369
3.POISON
4.この世の終わり
5.PLAY BACK!!
6.太陽の悪魔
7.愛
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◆MAMA.
1.MARIA
2.NOPE.
3.罪×罰
4.命日
5.PINK MOON.
■KHIMAIRA - Tokyo in Affection -
2025年03月22日(土)渋谷duo MUSIC EXCHANGE
OPEN 16:45 / START 17:30
【出演】 YUKI-Starring Raphael- / NICOLAS / XANVALA / CHAQLA.
前売り ¥5,800(税込)
オールスタンディング
※入場時ドリンク代別途必要
▼2次プレオーダー受付
【受付期間】12/28(土) 12:00 ~ 1/13(月) 23:59
【受付URL】https://eplus.jp/khimaira/
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・枚数制限:お一人様4枚まで
・受取方法:紙+スマチケ
・発券開始日:公演日1週間前~