【夜光蟲】ライヴレポート<1st ONE MAN LIVE 「路地裏より愛を込めて 上」>2025.02.17 SHIBUYA DIVE◆この日、遂に夜光蟲がその全貌を現した────。
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夜光蟲-yakouchuu-。
前バンド活動時に同名義で数回、カバー曲を中心としたアコースティックライヴを行っていた八雲(Voice)とTaizo(Guitar)。
バンド解散から約10ヶ月を経た2024年夏、アーティスト写真と共にオリジナル曲での正式始動を発表。12月に『蛾々』と『生まれ落ちたが運の尽き』の2曲のMusic Videoを公開すると、“路地裏電脳秘密倶楽部”をコンセプトとする他に類を見ない楽曲と独自の歌詞世界×AIアニメーションを駆使した映像の融合で、シーンに強烈なファーストインパクトを与えた。
肝心の音楽性をひとことで形容するのは、おそらく不可能に等しい。八雲は“アングラエレクトロAC歌謡オルタナティブロック”と表現していたが、野暮を承知であえてもう少し噛み砕くならば、“EDMを多用したバンドサウンド×アコースティックギター×歌謡メロディー”といったところか。そこに楽曲と同じくらい重きを置いている映像が加わり、さらには八雲が歌詞と平行して小説も執筆中(※10曲を合わせて1本の物語となる予定)と、夜光蟲の世界は多角的に形成される。
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但し、アコースティックギター=大人しい音楽という固定観念は禁物だ。以前インタビューで2人が「夜光蟲はユニットではなくバンドという意識で活動していく。」「ライヴではフロアも全力で盛り上がって欲しい。」と話していたとおり、柔軟な発想をもってTaizoが生み出す楽曲は、あくまでもバンドサウンドでのライヴを想定したもの。それを証明するように、始動ワンマンには路地裏同盟(サポートドラム)としてNosukeが参加することも発表されていた。夜光蟲のライヴは大人しくステージを眺めるのではなく、メンバーとオーディエンスが一体となって作り出す空間であることが大前提なのだ。
サブスクリプションに5曲・YouTubeに映像作品を3曲。短期間に出し惜しみすることなく配信し、満を持して迎えた始動ワンマン。その楽曲と世界観の完成度の高さから、彼らがどのようなステージを繰り広げるのか期待が高まる。
ほぼ定刻。開演前に流れていた昭和歌謡が鳴り止み、客電が落ちた。
異世界への扉がそっと開く音が反響し、電子音を多用したSEが空間を呑み込んでいく。ステージ後方のスクリーンに公演タイトルとバンドロゴが浮かび上がると、フラッシュするライトの中にまずはTaizoとNosuke、最後に八雲が登場。
極彩色をポイントで取り入れた衣装とメイク、怪異のような妖しさと独特なポップさが共存する斬新なヴィジュアルがよく似合う。
ステージ下手に八雲、上手にTaizoが立ち、ギターの音色が始まりを告げる。
「路地裏より愛を込めて。」静かに公演タイトルがコールされ、ライヴは最初に世に放った『蛾々』で幕を開けた。
“禍々しいかい 私の姿が 極彩色の羽音 鳴らす”
オーディエンスは息を呑み、ゆっくりと羽を広げ羽化する夜光蟲の姿を見つめる。
深淵の入り口となる楽曲で1曲目から圧倒すると、続く『無自覚を刻め』では羽を揺らし舞うように腕をひらつかせて歌う。その姿に先導され、フロアも手拍子を打ち鳴らす。
“不確かな未来 怖くて当たり前さ”“君は君さ 僕が肯定しよう”
ミラーボールの輝きすらどことなく憂いを帯びて感じるのは、この場所が既に“心のどこかで行き場を失くした君の前だけに現れる路地裏”だからなのだろう。
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「東京、会いたかった!声を!」
この日を心待ちにしていたことを伝える大歓声がステージへと投げ返されると、郷愁を誘う歌い出しからキャッチーなサビへと一気に切り込む『psyche』へ。
「遠慮してんじゃねえよ、東京!好きに楽しめばいいんだよ、そういうもんだろ?」
その言葉に呼応したオーディエンスの手拍子とNosukeの刻むビートが重なり徐々に熱を帯びれば、八雲とTaizoはステージ際へと歩み出てその熱を巻き込み増幅させていく。
この日から新たな相棒となったエレアコの音色を自在に使い分けながら激しさを増すTaizoの重厚なギタープレイと、八雲の内に秘めた激情を感じる独白に、会場全体が揺れ始める。夜光蟲が目指す“ライヴ感”が形成されていく様に胸が躍った。
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少しのインターバルに届いたどこか遠慮がちなメンバーコールに「デカい声で名前を呼んでくれますか?」と呼び掛けると、先程よりもボリュームアップした声が返された。しかし、彼の期待値は高く「そうか、君達にはブランクがあるんだ。そして、“八雲さん”とは初めましてなのもわかるよ。」と語り始める。
「『なんて呼んだらいいかわからない』とか、『どう楽しめばいいかわからない』とか、たぶんここに居る人達はみんな同じだよ。僕らも『こんなライヴにしよう』『あんなライヴにしよう』と色々と考えてきたけれど、本番が始まって音が鳴ってしまえばそんな机上の空論なんてどうでもよくなる。何が起こるかわからないから、ライヴでしょう?好きに動いていいよ、楽しめ。いいか?」と、オーディエンスの緊張を解していく。
そして、「ここに来た理由は人それぞれだと思うけれど、みんなが夜光蟲に求めているものは何となくひとつである気がしています。」そう言って、1人1人に向けて問い掛ける。
「だから、世界でただ1人、僕だけが君を幸せにできると勘違いをさせてくれないか?」
胸の真ん中に刺さる愛おしくも哀しい言葉から始まった『漆黒横丁』。Taizoがつま弾くギターと八雲の色気全開のロートーンボイス、呼吸を合わせ丁寧に音を紡ぐ。
他曲に比べEDM要素は薄くシンプルな音作りで歌を前面に押し出したことで、艶やかで切ない歌声と様々な奏法を惜しげもなく詰め込んだギターアレンジが一層映える。夜光蟲以前に2人が歩んできた音楽性も色濃く感じさせる、しっとりとした楽曲で魅了してみせた。
スクリーンに投影された、壊れた鍵盤と人形のアニメーション。狂った調律のオルガンで奏でられるショパンの夜想曲第2番に、耳を劈くギターが空気を一変させた『NOCTURNUS』。
“君の命は誰のもの?”―――這いながら浸食してくる闇、囁くような掛け合いが夜に怯える少女を悪夢へと誘う。
規則正しい手バンの動きすら異様に感じられて、回転するオレンジのライトに吸い込まれそうな感覚に襲われる。
「声を!」と煽る声で意識を引き戻されると、『生まれ落ちたが運の尽き』のイントロが流れ出した。
“死んだふりで生きてるわたし 雑踏よりも路地裏好む”
楽曲に合わせ、気だるげで世捨て人さながらの雰囲気を纏ったボーカリゼーションを聴かせる八雲と、対照的に左右モッシュや手拍子で沸くフロア。そこに、ギターパーカッションを交えスパイスの効いたTaizoのプレイが加わり、夜光蟲のライヴ空間は絶妙なバランスで構築されていく。
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「君達が楽しいかどうかわからないけど、僕は楽しいです。ありがとうございます。」とお礼を述べて、メンバー紹介へ。
大歓声に迎えられ笑顔を見せたTaizoは、「何だかみんなまだ大人しいですね。初めてだから、ちょっと様子見ですか?」とフロアに目を配り「八雲さんが自信満々に『俺が引っ張るから!』と言っていたので、彼を見ておけば大丈夫だと思います。」とアドバイス。
路地裏同盟として紹介されたドラマー・Nosukeは、Taizoと15年来の友人だという。それを聞いた八雲が「僕より長いね。」と口にすれば、すかさずTaizoが「嫉妬しているんですか?(笑)」と返し笑いを誘う。
シリアスとファニーの両面を併せ持つ八雲と、柔らかで物静かな口調ながらユーモアセンスに溢れたTaizo。MCでは、演奏中とはまた違う夜光蟲の一面を垣間見せてくれた。
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「次の曲はタオルを振ります。持っていなくても大丈夫、楽しんでいるかどうかはステージからわかるから、好きに楽しんでくれ。」
ピンクのライトの中、ドラムのカウントから始まった『sweetie』。
“でも死にたいわけじゃないんだって、ただ生きてく気力もない。そのどぎつい二律背反が私の首を締め付けるのです”と歌い出す、生と死のジレンマをシニカルに描いた楽曲。
視界一面にタオルがまわり、場内の熱が急上昇していく。
そのままの勢いで、狂愛灯の青い光に包まれた『愛に狂って』へ。
オフィシャルグッズの中でも一際目を引いた狂愛灯は、この曲で使用することが告知されていたペンライト。イントロが鳴ると無表情で狂愛灯を使った振り付けを披露する2人、シンセサウンドと緻密なギターリフ、そして哀愁漂うメロディーが魅力的な楽曲にあわせて輝く青は、さながら波間に揺れる夜光虫のようだ。
ちなみに2人は狂愛灯を両手に持って使用していたので、もちろん1本でも楽しめるが2本持てば2倍楽しめそうなことをお知らせしておこう。
「暴れる準備はいいか?お前たちの声を聞かせてくれ!」
振り切った暴れ曲の『混蟲 LESSTRANCE』、およそ文字にすることのできない歌詞で展開するこの曲は「たべたーい!」と連呼するTaizoのコーラスや、予想だにしないタイミングで繰り出されるRapに度肝を抜かれる。
レストランのテーブルに向かい合って座る蟲と女性を中心に展開するアニメーションもまた衝撃的で、まさかこんな曲があったとは・・・と夜光蟲の奥深さと幅広さに感服させられた。
代わる代わる上手下手を駆け回り、「かかってこい!」と叫んだ怒涛の煽りタイムでは、髪を振り乱しヘドバンしていたオーディエンスが逆ダイを開始!これぞヴィジュアル系と感じる光景は壮観だった。
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エンディングで起きたイヤモニトラブルで八雲が一旦ステージを捌けた間に、Taizoが『混蟲 LESSTRANCE』の誕生経緯を話す。「いわゆる逆ダイ曲ですけど、今のヴィジュアル系では逆ダイが絶滅危惧種になってきていて。2人で『あえて逆ダイの曲を入れたいよね。』と話して作った曲です。」
ここで八雲が戻り、「考え方は様々だけど。」と前置きをした上で、「最近、ヴィジュアル系ではない人がヴィジュアル系を名乗っていたりして。ヴィジュアル系という文化を荒らされているような感じがして、正直、胸糞悪いなって思う。僕の中では、“メイクをしたり、髪を立てたりしていればヴィジュアル系”というわけではないと思っています。そういうことではなくて、(心臓を指差しながら)ここだと思うんですよ。だから、夜光蟲で『ヴィジュアル系とはこういうものだ』としっかりみんなと共有したいし、取り返しにいきたい気持ちがある。」と真剣な表情で胸の内を明かした。
筆者自身も、昨今のヴィジュアル系という文化に対する世間一般での解釈や、実際は似ても似つかないものと混同された認識について複雑な想いを抱いている1人なので、彼の言葉に深く頷かされた。「夜光蟲でヴィジュアル系を取り返しに行く。」という頼もしい決意表明に期待しているし、その唯一無二の自由な音楽性をもって広いフィールドにヴィジュアル系の魅力を届けて欲しいと心から願う。
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『混蟲 LESSTRANCE』のループを再演し、畳みかけるように『セイディーメイニー』へと突入すれば、レトロな雰囲気の導入部からは想像がつかないダンサブルでハードなサウンド展開がフロアを揺らす。Taizoは「ライヴで皆さんと戦う曲」とポストしていたが、掻き鳴らされるアコギと繰り返すサビのフレーズに触発されたオーディエンスの激しいヘドバンの応酬で、会場内のボルテージは最高潮へと達した。
先ほどまでの激しさから一転、真っ暗なステージの頭上からライトが差し込み、水音で満たされていく。
「人は、自分が何のために生まれたのか一度は考える。でもそれは、生命の営みの一部に過ぎない。」と八雲が話すと、Taizoが幻想的なアルペジオが奏で始める。
最後に披露されたのは、『遺恨』と名付けられた楽曲だった。
“幸せという言葉が嫌いでした、強迫的で曖昧なものだから”
言葉の一節一節と、フロア一面の青の世界。深海の底へと、身も心も沈み込んでいく。
“流れ星、きらめく星の戯れ”海の中で星のように、青く光を放つ夜光虫。スクリーンに映る、炎に包まれたピアノ。
跪き全身全霊を込めて歌い上げた八雲がアウトロでそっと姿を消し、Taizoの優しく包み込む澄んだ音色が世界を浄化するような余韻を残して、夜光蟲の1st ONEMANは幕を下ろした。
客電が点いても鳴りやまないアンコールの声の中で、誰もいなくなったステージを見つめ、暫し呆然と立ち尽くす。
たった今繰り広げられた圧倒的な世界観を前に、気持ちは高揚するばかりだった。
「新しい言葉やモノは、既存の言葉で形容しづらいところから生まれる。」
ライヴ数日前に八雲がXに書き記していた言葉。
禍々しい羽を広げ生まれ落ちた夜光蟲は、これからどんな進化を遂げるのだろう。
次に彼らが姿を現すのは、2025年5月24日(土) 池袋EDGEにて開催される2nd ONEMAN LIVE「路地裏より愛を込めて 下」。サポートドラムに長年シーンで共に切磋琢磨してきた盟友Johannesの参加も発表され、さらなる化学変化に期待が高まる。今回と対になった公演タイトルにも注目しつつ、再びほの暗い路地裏で陰鬱な極彩色に染め上げられる日を心待ちにしよう。
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文:富岡 美都(Squeeze Spirits)
LIVE
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2025年5月24日(土)
#夜光蟲 2nd ONEMAN
「路地裏より愛を込めて 下」
池袋EDGE
出演 : 夜光蟲 / support Dr.Johannes
関連リンク
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